トラブルレポート

2007年04月08日  003275km

(1)トラブルの概要


@症状


エンジン始動後、暖機運転を行い、メーターパネルの水温計が動き出し、エンジンのアイドリング回転数がメーターパネルのタコメーターの指針で1000rpm以下になり落ち着いたところで車両を発進させています。

車両を発進させ、通常の運転状態で約1〜2km程走行した所で、信号待ち等で車両を停止させ、再発進させる時にアイドリング回転数からメーターパネルのタコメーターの指針で約1800rpmの範囲内でエンジンが急に吹け上がらなくなり、その後ハンチングを繰り返しながらエンジン回転数が上昇して行く。

メーターパネルのタコメーターの指針で、約2000rpmを越えてしまうと、この様な現象は一切発生しない。

症状が発生すると約1分間程、この様な症状が繰り返し発生するが、この状態のまま通常走行を続けると症状は解消し再発しなくなる。

エンジンを約3時間以上停止させた状態の後、エンジンを再始動し車両を発進させると、上記の内容の症状が発生する。

エンジンの停止時間が上記よりも短時間な場合には、この様な症状は発生しない。

この症状は、クラッチペダルから完全に足を離し、クラッチが接続状態で発生している。

この症状が発生した瞬間にクラッチペダルを踏み込むと、短時間にエンジン回転数が上昇下降を繰り返すハンチング現象が顕著に現れた。


A発生


初めてトラブルの発生を体験したのは、総走行距離1009km(2007年03月04日)の時です。

但し、これ以前にもクラッチミートのミスの様な感じで、少し違和感を感じた事がありましたが、非常に稀に発生しており、今回のトラブルと同一のトラブルか、あるいはクラッチミートのミスによるものかの判断は困難です。

このトラブルは、この総走行距離1009km以来 毎日発生しており、通勤に当該車両を使用している事から勤務日の毎日2回、出勤時、帰宅時と経験しています。

休日も、ほぼ毎日 当該車両を運行していますので、このトラブルは毎日 経験しています。

症状が発生する時には、時間、天候、気温(2007年03月04日〜2007年04月08日の間のみ)、道路には関係ありません。

運転者も、複数の人間が運転しても同じ症状が発生します。


その後、2007年04月02日 総走行距離3000kmの時点で エンジンオイルを”日本サン石油 SUNOCO Svelt 5W-30”に交換、更にオイルフィルターも交換しましたが、それ以降は当該トラブルは一切発生していません。

(2)トラブルの診断

Z33型車(VQ35HR型エンジン搭載車)エンジンルーム

新たに開発された”VQ35HR”型エンジンを搭載する”V36型 SKYLINE”、”Z33型 FAIRLADY Z”から、専用の診断機が”NISSAN CONSALT V”となりました。

”NISSAN CONSALT V”には、本体に加えて車両取り付け用子機も準備されています。

今回は、この”NISSAN CONSALT V”の子機を車両に取り付け、トラブル発生時の制御系統の信号等を記憶し、トラブルの原因を分析する事といたしました。

試験期間・・・・・2007年04月08日 総走行距離3275km〜2007年04月17日 総走行距離3344km

@分析


エンジンオイルは、現在”日本サン石油 SUNOCO Svelt 5W-30”を使用しています。

このエンジンオイルに交換してからは、一切 当該トラブルは発生していません。

念の為に、”日本サン石油 SUNOCO Svelt 5W-30”を使用したままの状態で当該車両の試運転を繰り返し実施しましたが、やはりトラブルの症状は確認出来ませんでした。

トラブルが初めて発生した時は、2007年03月04日 総走行距離1009kmの時で、エンジンオイルは”日産自動車 エンデュランス 10W-50”を使用している時でした。

日産自動車 栃木工場 製造ラインを出庫する際には、”日産自動車 SLストロングセーブX・Mスペシャル 5W-30”が注入されていましたが、2007年02月24日 総走行距離501kmの時点で”日産自動車 エンデュランス 10W-50”に交換。

更に、2007年03月04日 総走行距離1008kmの時点で”日産自動車 エンデュランス 10W-50”を使用して2回目のエンジンオイル交換、加えてオイルフィルターも交換している。

エンジン内部にあるエンジンオイルは、日産自動車 栃木工場 製造ラインを出庫する際に注入されていた”日産自動車 SLストロングセーブX・Mスペシャル”は0%近くまで抜けてしまい、替わりに”日産自動車 エンデュランス 10W-50”が100%近くの高い純度で注入された状態となっています。

この2007年03月04日 総走行距離1008km以降で初めてトラブルが発生しており、その後トラブルが続いていましたが、2007年04月02日 総走行距離3000kmの時点でエンジンオイルを日産自動車 栃木工場 製造ラインで注入されていましたエンジンオイルと同粘度を持つ”日本サン石油 SUNOCO Svelt 5W-30”に交換、同時にオイルフィルターを交換した以降ではトラブルが一切発生していない様になっています。

この結果から、今回のトラブルはエンジンオイルに原因がある可能性が高い事から、トラブルが発生していた時に使用していました”日産自動車 エンデュランス 10W-50”へ再度交換し、試験を行う事になりました。

”日産自動車 エンデュランス 10W-50”へとエンジンオイル交換後に試運転を行い試験しましたが、全くに近い位 トラブルの症状は現れませんでした。

試運転を行い試験を繰り返す中、一度だけトラブルの症状が現れました。

その後、再びトラブルの症状が現れる事を願って試運転を行い試験を繰り返しましたが、一度だけ現れたトラブルの症状は、二度と現れる事はありませんでした。

これにより、トラブルが頻繁に現れ始めた時と同じ様に、エンジンオイルを”日産自動車 エンデュランス 10W-50”に2回目の交換、更にオイルフィルターも同時に交換しました。

この後、試運転を行い試験を繰り返し、トラブルの症状が頻繁に起きる様になりました。

エンジン冷機状態からエンジンを始動、メーターパネルの水温計が上昇を始め、メーターパネルのタコメーターが1000rpm以下に落ち着いてから試運転を行い試験を実施していると、走行開始から約1kmを走行後にトラブルの症状が顕著に現れました。

やはり、エンジンオイルが原因のトラブルでしょうか。

当該車両を、試運転を行い試験を繰り返し実施している時には、前述の”NISSAN CONSALT V”の子機を当該車両に取り付けています。

試運転を行い試験を実施している時にトラブルの症状が現れた時には、この”NISSAN CONSALT V”の子機に制御系統の信号等を記憶させる様に作動させ、情報の収集を行いました。


A情報


正常時実測値:エキゾースト側V.T.C.(Variable Timing Control)角度数値、デューティー比数値、車速数値


正常時実測値:エキゾースト側V.T.C.(Variable Timing Control)エンジン回転数数値、水温センサー数値、バンク1 スロットルセンサー数値

不具合発生時実測値:エキゾースト側V.T.C.(Variable Timing Control)角度数値、デューティー比数値、車速数値

不具合発生時実測値:エキゾースト側V.T.C.(Variable Timing Control)エンジン回転数数値、水温センサー数値、バンク1 スロットルセンサー数値

実測値数値の内、”Time”の中で00"00となっている時間がトリガーパルスを発射した基準時間となっています。

この基準時間から前後の一定時間の実測値を記憶し、記憶情報として印刷されています。

記憶情報として印刷された実測値数値の内、”不具合発生時実測値”の中の”EX VTC S/V B1(Exhaust Variable Timing Control Solenoid Valve Bank 1)”の数値が”Time -01"69〜02"02 ”の間で大きく変化している。

この数値の大きな変化に伴い、”不具合発生時実測値”の中の”EX VTC カクド B1(Exhaust Variable Timing Control 角度 Bank 1)”の数値が”Time -01"01〜02"02 ”の間で大きく変化している。



正常時グラフ:エンジン回転数、スロットルセンサー、インテーク側V.T.C.角度バンク1&2、エキゾースト側V.T.C.角度バンク1

正常時グラフ:エキゾースト側V.T.C.角度バンク2、インテーク側V.T.C.ソレノイドバルブバンク1、インテーク側V.T.C.ソレノイドバルブバンク2、エキゾースト側V.T.C.駆動バンク1、エキゾースト側V.T.C.駆動バンク2

正常時フラインググラフ:エキゾースト側V.T.C.角度バンク1

↓ トリガーパルス発射点

不具合発生時グラフ:エンジン回転数、スロットルセンサー、インテーク側V.T.C.角度バンク1&2、エキゾースト側V.T.C.角度バンク1

不具合発生時グラフ:エキゾースト側V.T.C.角度バンク2、インテーク側V.T.C.ソレノイドバルブバンク1、インテーク側V.T.C.ソレノイドバルブバンク2、エキゾースト側V.T.C.駆動バンク1、エキゾースト側V.T.C.駆動バンク2

不具合発生時フラインググラフ:エキゾースト側V.T.C.角度バンク1

↓ トリガーパルス発射点

”NISSAN CONSALT V”を接続し、制御系統等の情報として記憶された数値をグラフに変換しました。

正常時グラフと不具合発生時グラフとを比較すると、”EXH VTC クドウB1(Exhaust Variable Yiming Cam Solenoid Valve Bank 1)”の変化割り合いが大きく変動している。

また、同じく正常時グラフと不具合発生時グラフとを比較すると、”EXH VTC カクドB1(Exhaust Variable Yiming Cam 角度 Bank 1)”の変化割り合いも大きく変動している。

実測値の数値の大きな変化に伴い、グラフに変換すると変化割り合いが短時間に大きく変動している事が解る。

Exhast Variable Timing Cam Solenoid Valve Bank 1のデューティー比制御数値が大きく変化すると、これに伴いExhaust Variable Timing Cam 角度 Bank 1が実行数値が大きく変化している。

(3) トラブルの結論


@構造


”VQ35HR型エンジン”には、インテーク側、エキゾースト側共にバルブタイミング制御システムが取り付けられている。

インテーク側のバルブタイミングシステムは、E.C.M.(Electronic Contorol Module)に入力される運転状態により決定されるからの制御信号によりインテークバルブタイミングコントロールソレノイドバルブを電気的に制御します。

更に、このインテークバルブタイミングコントロールソレノイドバルブによって油圧制御が行われ、インテークバルブタイミングコントローラーを作動させ、インテークバルブの開閉時期を適正に制御している。

エキゾースト側のバルブコントロールシステムは、エキゾーストバルブの作動角は一定のまま、電磁力によってカムの位相を連続的に可変制御します。

エキゾーストバルブタイミングコントロールは、エキゾーストバルブタイミングコントロールプーリーアッセンブリーと電磁リターダーから構成されています。

エキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーは、E.C.M.のデューティー制御信号に応じた磁力を発生し、エキゾーストバルブタイミングコントロールドラムの回転位相角を制御します。

また運転状態に応じた最適な目標バルブ開閉時期となる様に、カム位置を検出する為のエキゾーストバルブコントロールプジションセンサーを設けている。


エキゾーストバルブタイミング制御システムの概念図

エキゾーストバルブタイミング制御システムの回路図

A結論


エキゾーストバルブタイミング制御システムは、水温センサーが感知するエンジン冷却水温が80度以下では制御システムを固定。

水温センサーが感知する冷却水温が81度以上になると制御を開始する。

”VQ35HR型エンジン”を搭載する”NISSAN FAIRLADY Z(Z33型)”の場合、冷機時(エンジン冷却水温 20度)からエンジンを始動すると、素早く約1分位でエンジン冷却水温は約60度まで上昇する。

エンジン冷却水温は約60度までは素早く上昇するものの、完全な暖機状態となる80度以上にはなかなかならない事が判明した。

エンジン冷却水温が約60度まで上昇した後、車両の走行を開始。

車両の走行を開始してから約1kmを走行後に、エンジン冷却水温は81度を越えた。

調度、トラブルが発生する条件と重なった時である。

エンジン冷却水温が81度を越えると、エキゾーストバルブタイミング制御システムの作動が開始する。

この時点から、車両の運転状態により最適と思われるデューティー比制御用信号を、E.C.M.がエキゾーストバルブタイミングタイミング電磁リターダに送り制御を行う。

エキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーは、E.C.M.のデューティー制御信号に応じた磁力を発生し、エキゾーストバルブタイミングコントロールドラムの回転位相角を制御します。

また運転状態に応じた最適な目標バルブ開閉時期となる様に、カム位置を検出する為のエキゾーストバルブコントロールポジションセンサーを設け、常にカムシャフトの位相、エキゾーストバルブタイミングコントロールバルブの作動状況を監視している。

エキゾーストバルブタイミングコントロールドラムはエンジンオイルにより潤滑されています。

エンジンオイルが指定粘度より固いエンジンオイルを使用した場合、エキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーとエキゾーストバルブタイミングコントロールドラム間の油膜形成が実験・開発時とは異なり、油膜の厚さ、オイルの動粘度が異なる為、E.C.M.が最適となる様に計算したデューティー比制御用信号がエキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーへ送られ、エキゾーストバルブタイミングコントロールドラムの回転位相を制御する様に動く際、目標位相とは異なる位相となってしまい、この異なった位相の状態をエキゾーストバルブコントロールポジションセンサーが作動状況を監視している為、即時 補正信号をエキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーへ送る様にと、エキゾーストバルブコントロールポジションセンサーがE.C.M.へと指示を出します。

この指示が出て、E.C.M.から補正信号が出された直後にエキゾーストバルブタイミングコントロールリターダーの位相が、最初にE.C.M.が目標値となる様に計算したデューティー比通りの位相位置となり、この位相位置をエキゾーストバルブコントロールポジションセンサーが感知し、先程 E.C.M.に指示を出した補正信号を撤回する旨をE.C.M.に送ります。

しかし、E.C.M.により送り出された補正信号によって、エキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーがエキゾーストバルブタイミングコントロールドラムの位相を、E.C.M.から出されたデューティー比補正信号通りに既に変化させる様に作動しており、更に目標値からずれた位相となってしまいます。

目標値からずれてしまうカムの位相を追う様に、エキゾーストバルブコントロールポジションセンサーからの指示で、E.C.M.がエキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーへ補正信号を変化させながら送り続け急激な制御数値の変化となってトラブルが発生しておりました。

この状態のまま暫く走行を続けると、エンジンオイル自身の温度が上昇し、粘度が柔らかな状態に変わる事から、実験・開発時の粘度指数に近い状態となり、エキゾーストバルブタイミングコントロールシステムの制御がE.C.M.が計算するデューティー比通りとなり、正常な制御状態となろ事からトラブルは解消されておりました。

実験・開発段階では、センシング(センサーを利用して物理量や音、光、圧力、温度等を計測、判別する事)し、同一のエンジンオイル温度、エンジンオイル粘性でエキゾーストバルブタイミングコントロール電磁リターダーと、エキゾーストバルブタイミングコントロールドラムの間のスリップ率を試算し最適な寸法値等としている為、粘度指数の異なる(固い)エンジンオイルを使用した場合には、この様なトラブルが発生する事に繋がったと判明しました。

この様な調査結果から、エンジンオイルは指定粘度の 5W-30 を必ず使用する。

また新車時の注入エンジンオイルは、エステルが配合された”日産自動車 SLストロングセーブX・Mスペシャル”を注入している事から、このエステル配合といった成分にも注意する事が必要かも知れません。



トラブルの結論が出た所で、エンジンオイルを”日産自動車 SLストロングセーブX・Mスペシャル”に交換、試運転後 更にエンジンオイルを”日産自動車 SLストロングセーブX・Mスペシャル”、オイルフィルターも交換し、分析は終了です。



技術情報 日産自動車株式会社

技術情報 兵庫日産自動車株式会社