取材車両 CPV35-650465
入庫日 2006年12月03日
走行距離 4728km
サウンドスコープ
異音の原因を探索します
サーキットを走行する為に、ショップで強化クラッチを取り付け、この強化クラッチとセットになっている軽量フライホイールも取り付けた後、かなり大きな異音が発生し、走行するのが怖い位だから、どこに異常があるのかを点検してほしいと言う依頼を受けました。
発生するのは加速時のみ。
ある程度 走行した後の方が大きな音となると言う。
天候、気温、時間等には関係ないそうです。
簡単な問診を終え、ユーザーと共に試運転を行いました。
試運転の結果では、速度には関係なく、エンジン回転数に関係している様で、アイドリング付近から2400rpmまでで発生し、2000rpm付近が最大の音となった。
また、第5速、第6速では、2000rpm付近でアクセルを踏み込むと、車体全体が振動し、この振動は室内のトリムにもビビリ音を発生させるほどだ。
また、かなり凄い異音が発生する為、周りの歩行者が振り返るほどだった。
工場に帰り、フリーローラー上に車両をセットします。
ピットに入り込み、別の自動車整備士にフリーローラー上で運転をさせます。
異音が発生すると、サウンドスコープ(聴診器)を使用し、どこから異音が発生しているのかを点検しました。
点検の結果、マニュアルトランスミッション本体から大きな異音が発生している様です。
サウンドスコープを使用しなくても、異音が発生している状態では、マニュアルトランスミッション本体を手で触ると大きな振動が直接 手に伝わって来ました。
新たに取り付けられた強化クラッチ、軽量フライホイール、あるいはマニュアルトランスミッション・・・。
組み付け方に問題があるのか?
あるいは部品に不具合が出て来ているのか?
現在の状態では不明な為、車両をリフトで上げ、マニュアルトランスミッションを取り外し、クラッチ取り付け部等を確認してみる事になりました。
バッテリーのマイナス端子を外します
CPV型車のエンジンルーム全景
運転席ドアガラスを少し下げておきます
運転席ドアガラス、そして必要ならば助手席ドアガラスを少し下げ、バッテリーのマイナス端子を外します。
この車両は、パーシャルダウンウィンドゥ機構が装備されている関係で、ドアガラスを最上部まで上昇させドアの開閉を行うと、ボディーとドアガラスが強く接触してしまい、ボディーあるいはドアガラス、または その両方を損傷してしまう可能性があります。
サイドブレーキを緩め、シフトレバーをニュートラル位置にします。
車両をリフトにセットし、リフトアップします。
車両前部より見たCPV型車アンダーフロア部
車両後部より見たCPV型車アンダーフロア部
マニュアルトランスミッションを下側より見ます
ドレーンプラグを取り外します
ギヤオイルを抜き取ります
取り外したドレーンプラグ
エンジンアンダーカバーリヤ側を取り外します
ボルトとクリップを取り外し中
取り外したエンジンアンダーカバーリヤ側
マニュアルトランスミッションのギヤオイルを抜き取ります。
取り外したドレーンプラグを清掃し、ドレーンパッキンは新品に交換する事を推奨いたします。
ギヤオイルの抜き取りが完了しましたら、ドレーンパッキンを取り付けたドレーンプラグを取り付け、締め付けます。
エンジンアンダーカバーの内、リヤ側に取り付けられている物のみを取り外します。
エキゾーストチューブサポートBkt.を取り外します
取り外したエキゾーストチューブサポートBkt.
natto
ボルト、ナットを取り外し中
エキゾーストチューブサポートブラケットを取り外します。
排気ガスの熱の影響で、取り付けナットが緩め難い場合には、ルーセン等を噴き付け、暫く浸透させてからナットを緩める様にします。
触媒付近に取り付けられているO2センサーの配線に設けられているカプラーを分割し、細いマイナスドライバー等を使用し、ブラケットからカプラーを抜き取ります。
カプラーブラケットも取り外しておきます。
O2センサーの配線を外しておきます
カプラーを分岐します
Bkt.からカプラーを抜き取ります
Bkt.からカプラーが抜き取れました
Bkt.を取り外します
取り外したBkt.
触媒の後部に接続されていますエキゾーストチューブを取り外します。
排気ガスの熱の影響で、取り付けナットが緩め難い場合には、ルーセン等を噴き付け、暫く浸透させてからナットを緩める様にします。
エキゾーストチューブを エキゾーストチューブを取り外しましたら、前部に2枚、後部に1枚 取り付けられていますガスケットも取り外しておきます。
なお、このエキゾーストチューブガスケットは再使用出来ませんので、必ず新品を準備しておく必要があります。
エキゾーストチューブを取り外します
触媒の後部側を取り外し中
エキゾーストチューブ後部を取り外し中
取り外したエキゾーストチューブ
エキゾーストチューブ取り外し後の車体側の様子
プロペラシャフト後端部
ボルト、ナットを取り外し中
プロペラシャフトのセンターベアリング部
ナットを取り外し中
前端部はスプライン挿入されています
取り外したプロペラシャフト
プロペラシャフト取り外し後のファイナルドライブ前部
プロペラシャフト取り外し後のセンターベアリング取り付け部
プロペラシャフト取り外し後のM/T後部
プロペラシャフトを取り外します。
プロペラシャフト後部のファイナルドライブとの連結部のボルト、ナットと取り外します。 プロペラシャフトを手で少し揺する様にしてファイナルドライブと分離しておきます。
プロペラシャフトセンターベアリング取り付け部のナットを緩め、手でプロペラシャフトを支えながら、センターベアリング取り付けナットを取り外します。
プロペラシャフトの前端部は、マニュアルトランスミッション後端部にスプライン挿入されているだけですので、後部に引き抜く様にすればプロペラシャフトは取り外す事が出来ます。
シフトコントロールロッドを取り外します
ダストブーツを捲り取ります
連結部のボルトを取り外します
連結部のボルトが外れました
取り外したボルト
室内から延びているシフトレバーと、マニュアルトランスミッション後部から出ているシフトコントロールロッドの連結部に取り付けられているボルトを取り外します。
これは、シフトレバー下部に取り付けられている、シフトレバーとシフトコントロールロッドとの連結部を保護する為に取り付けられているダストカバーを捲り取ると見えて来ます。
リバーススイッチのカプラーを外します
ニュートラルスイッチのカプラーを外します
スターターモーターS端子を外します
クランク角センサーのカプラーを外します
固定されている配線をフリーにします
前側から見た配線の取り回し状態
車両左側から見た配線の取り回し状態
差し込まれたままのカプラーが無い事を再度確認します
マニュアルトランスミッションに取り付けられている部品(リバーススイッチ、ニュートラルスイッチ等)に差し込まれているカプラーを外します。
スターターモーターS端子に挿入されているカプラー、クランク角センサーに挿入されているカプラーも外しておきます。
マニュアルトランスミッションに固定されている配線をフリーな状態にし、マニュアルトランスミッションを取り外す際に、引っ掛かったりしない様に移動しておきます。
マニュアルトランスミッションを取り外す際に、カプラーが挿入されたまま、あるいは配線がマニュアルトランスミッションに固定されたままだと、配線を切断等してしまう可能性がありますので、確実に全てが取り外されている事を充分に再確認しておく必要があります。
クラッチオペレーティングシリンダーを取り外します。
クラッチオペレーティングシリンダー本体を取り付けている2本のボルトを外し、邪魔とならない場所に避けておきます。
また、プッシュロッドが脱落して紛失しない様に対処しておく事も必要です。
クラッチオペレーティングシリンダーを取り外します
本体を固定しているボルトを取り外します
取り外したボルト
クラッチオペレーティングシリンダーが外れました
車両後方右側
車両前方左側
車両前方左側
スターターモーターを取り外します
下側は前方から、上側は後方からボルトが挿入されています
取り外したスターターモーター取り付けボルト
スターターモーターが外れました
エンジンとマニュアルトランスミッションを固定しているボルトを取り外します。
この時点では、上部に取り付けられているボルトは、工具が入らない為 後程取り外します。
工具が入る、中央よりも下側のボルトを取り外します。
なお、最左、最右のボルトは、緩めるだけにして取り外さないでおきます。
不用意にマニュアルトランスミッションが脱落するのを防止する為で、マニュアルトランスミッションを取り外す準備が全て整った後、取り外す様にます。
同時にスターターモーターも、取り外します。
スターターモーターに接続されている配線は、S端子を除き取り外さなくても作業は行えますので、今回はS端子以外は取り外さずに作業を進行させました。
また、取り外したスターターモーターは、マニュアルトランスミッションを取り外す際に、妨げとならない場所に避けておきます。
missyonnmaunnto
ミッションメンバーを取り外します
T/M〜メンバーの接続ボルトを緩めます
ミッションジャッキをセットします
メンバー〜ボディーの接続ボルトを取り外します
ミッションメンバーが外れました
フック状に加工されています
ミッションジャッキを用意し、ミッションメンバーの取り外し作業に入ります。
マニュアルトランスミッション 〜 ミッションメンバーを連結しているボルトを緩め、ミッションジャッキをマニュアルトランスミッション中央部にセットします。
ミッションメンバー 〜 ボディーを連結しているボルトを取り外し、ミッションジャッキを少し下げます。
マニュアルトランスミッション 〜 ミッションメンバーを連結しているボルトを取り外し、ミッションマウントを少し持ち上げ横にスライドさせフック状に加工された部分を交わして取り外します。
シフトレバーBkt.を取り外します
M/Tが少し下がった事により上部にも工具が入ります
下側のボルトも取り外します
外れたボルト
シフトレバーBkt.はぶら下げたままにします
シフトレバーブーツがある為、抜け落ちる事はありません
シフトレバーブラケットを取り外します。 ミッションメンバーを取り外した為に、マニュアルトランスミッションが少し下側へ下がります。
この為、シフトレバーブラケット上部のボルトを取り外す為の工具が入り、作業が行える様になっています。
シフトレバーブーツがある為に、シフトレバーが脱落してこないので、シフトレバーブラケットは このままぶら下げておく事にします。
また、エンジン 〜 マニュアルトランスミッション連結部のボルトの内、上部に取り付けられているボルトも取り外します。
上部のボルトも取り外します
エアブリーダーホースを抜きます
取り外したエアブリーダー
外し忘れている部品が無い事を再確認します
マニュアルトランスミッション上部に取り付けられているエアブリーダーホースを抜き、エアブリーダーを取り外します。 なお、エアブリーダーは、エンジン 〜 マニュアルトランスミッション連結ボルトの内、上部のボルトと共締めされています。
外し忘れている部品が無いか、再度充分に確認を行います。
エンジン 〜 マニュアルトランスミッション連結ボルトには直径、ピッチは同じでも、少し長さが異なる物がありますので、ボルトの挿入箇所を確実に記憶しておく必要があります。
取り外したボルト
E/G 〜 M/T間に隙間が出来ました
取り外したM/T
エンジン 〜 マニュアルトランスミッション連結ボルトは、後部からの挿入のみではなく、前部からも挿入されている物があるので、よく確認して全てを取り外します。
ミッションジャキの架かり具合等を確認し、もう1人の作業者がマニュアルトランスミッションを手で支えながら、最後まで残しておいた最左、最右のエンジン 〜 マニュアルトランスミッション連結ボルトを取り外します。
マニュアルトランスミッション後部を少し揺すると、エンジンとマニュアルトランスミッションとの間に隙間が出来て来ました。 ここに、マイナスドライバー、バー等を挿入し、少しずつ隙間を広げ、完全に分割します。
クラッチが取り付けられているエンジンの後部
M/Tのクラッチハウジング部
メインドライブシャフトも異常なし
レリーズフォーク&レリーズB/gは異常なし
クラッチカバーを取り外します
エンジンとマニュアルトランスミッションが完全に分割出来ましたら、マニュアルトランスミッションを手で支えながらミッションジャッキを降ろします。
マニュアルトランスミッションをミッションジャッキから降ろし、床上に置きます。
マニュアルトランスミッションの各部分、エンジン後部に取り付けられているクラッチに異常が無いかを点検します。
点検の結果、異常が認められませんでしたのでクラッチディスクと共にクラッチカバーを取り外します。
取り外したクラッチカバー&ディスク
摩耗、歪み、レバーハイトを点検します
表側(エンジン側)の状態を点検します
裏側(M/T側)の状態も確認します
スプライン勘合部のがたを点検します
クラッチカバー、クラッチディスクの摩耗、変形、焼け、傷等の異常の有無を点検します。
レリーズレバー、レリーズベアリングの給油状態も確認します。
今回の確認で、クラッチスプラインに給油されていない事が判明しました。
クラッチディスクをマニュアルトランスミッションのメインドライブシャフトのスプラインに勘合させ、がたが無い事を確認します。
大きな異常は認められませんでした。
エンジン後部に取り付けられているフライホイール
フライホイールを取り外します
取り外したフライホイール
摩耗、変形等を点検します
裏側も点検します
エンジン後端に取り付けられているフライホイールを、フライホイールのリングギヤに周り止め用工具を取り付け、取り付けボルトを取り外します。
大きなトルクで締め付けられている為、周り止めを施さないで取り付けボルトを緩め様とした場合、エンジンが回転しボルトが緩められない事があります。
取り外したフライホイールを、摩耗、変形、焼け、傷等の有無を点検します。
このフライホイールにも異常は見受けられませんでした。
フライホイールが外れたエンジン後端部
クランクシャフト後部(フライホイール取り付け部)
取り外したマニュアルトランスミッション、レリーズフォーク、レリーズベアリング、クラッチカバー、クラッチディスク、フライホイール。
どの部品にも異常は見受けられませんでした。
クランクシャフト後部に凹んだ部分があり、ここにマニュアルトランスミッションのメインドライブシャフトの先端が入り込む為に焼結合金がオイルレスメタルシュとして圧入されていますが、このオイルレスメタルにも異常は見受けられませんでした。
現時点では、取り付けられている部品は正常。
また、これらの部品の取り付けられていた状態も正常と言う事になります。
では、何故 大きな異音が発生するのか?
少し情報を収集してみる事にしました。
日産自動車株式会社の見解では、VQ35型エンジンは低速からトルクが太いエンジンの為、2000rpm前後の低回転域では振動が発生し易く、エンジンで発生した振動はトランスミッションに伝わりトランスミッション内部機構を共振させてしまう事がある様です。
このエンジンが発生させてしまう振動を抑制する為に、重量的に大きなフライホイールを取り付けています。
この為に、軽量化フライホイールを取り付けた場合には、エンジンで発生してしまった振動が抑制されずにトランスミッションに伝わり、トランスミッション内部が共振してしまい、大きな異音となって聞こえて来る様です。
現車に取り付けられている軽量化フライホイール&クラッチ製造メーカーである小倉クラッチ株式会社の見解では、日産自動車のVQ35型エンジンに軽量化フライホイールを取り付けた場合には、エンジンから発生する振動が抑制されずトランスミッションに伝わり、大きな異音を発生する事は承知しているそうです。
また、今回 現車に取り付けられているタイプのクラッチは、クラッチ自身も軽量化されている為、この異音は更に大きく出てしまった様です。
当該製品を取り付けた場合には、異音が発生してしまうものの、サーキット走行等を考えた時にはエンジンレスポンスが重要視される事から、異音が発生する事は承知の上、あえて軽量化されたフライホイール&クラッチを製造しているそうです。
この異音は、かなり大きな音が発生しますが、装着する事による他の部品への影響は、実験の結果 皆無である事から静粛性を取るか、軽量化を取るかはユーザーの判断に任せているそうです。
以上の得られた情報から判断すると、ユーザーが依頼し強化クラッチを取り付けたショップが、予めユーザーに説明し納得してもらってから当該部品(軽量化フライホイール、強化クラッチ)の取付を行っていない。
ユーザーは、軽量化フライホイール、強化クラッチの装着は希望していたが、大きな異音を発生する事は想定しておらず、怖い位に大きな異音が発生する位ならば純正品のままが良かった。
この為、今回はユーザーの希望で、不安を招く様な大きな異音の発生は無くしたい為、再び純正のフライホイール、クラッチに交換する事になりました。
ユーザーが依頼し強化クラッチを取り付けたショップに、ユーザー本人に確認してもらった所、取り外した純正部品は既に処分し無いと伝えられた。
仕方が無い為、新品の純正フライホイール、クラッチを手配する事になりました。
純正フライホイール
軽量化フライホイールとの比較 表側(左:軽量化)
手配しました純正フライホイールが手元に届きましたので、パッケージを開封し製品を確認してみます。
また、取り外した軽量化フライホイールと外観を比較してみました。
表側はリヤ側、裏側はフロント側で、クラッチ取り付け面は表側です。
フライホイール(日産純正) 12310-CD001
純正クラッチ
強化クラッチカバーとの比較 表側(左:強化)
フライホイールを取り付けました
新たに用意した純正部品が揃いましたので、組み付け作業に取り掛かります。
フライホイールをクランクシャフト後端部の取り付け部に部に取り付け、取り付けボルトを仮締めします。
フライホイールに周り止めを施し、フライホイール取り付けボルトを本締めにします。
クランクシャフト後端部には1箇所ピンが取り付けられ、フライホイールには1箇所ピン挿入穴があり、決まった位置でしかフライホイールの取り付けは出来ません。
純正クラッチ取り付けボルト&ワッシャー
S.S.T. クラッチアライニングバー
クラッチディスクのセンター出しを行います
クラッチカバーを取り付け、仮固定します
センターが出ている事を確認します
クラッチアライニングバーを抜き取ります
純正クラッチを取り付けるのに当たり、取り付けボルトも装着されていた強化クラッチを取り付けていたボルトと異なる為、新品の日産純正部品を手配しました。
クラッチカバー取り付けボルト 30223-JA001(9個)
クラッチカバー取り付けワッシャー 30240-07S00(9個)
S.S.T.クラッチアライニングバーを用意します。
フライホイール、クラッチカバーのクラッチディスク接触面を綺麗に清掃し脱脂します。
クラッチディスクの表裏に注意し、クラッチアライニングバーを使用しフライホイールの中央にクラッチディスクをセットします。
このこのクラッチディスクを覆う様にクラッチカバーを取り付け、仮固定します。
この時点で、クラッチディスク、クラッチアライニングバーがクラッチカバーの中心に取り付けられているかを確認します。
クラッチアライニングバーを抜き取ります。
この時に、クラッチアライニングバーが引っ掛かり抜き取れない場合には、クラッチディスクの中心が狂っている場合がありますので、再確認を行う必要があります。
クラッチアライニングバーは、クランクシャフト後端部のオイルレスメタル及びクラッチディスクにぴいたりとした寸法で挿入されている為、抜き取る時には少し大きな力が必要となります。
ただ、手で抜き取れる固さでしかないのが通常ですので、手の力だけで抜き取る事が出来ない場合には、クラッチディスクに中心が出ていない場合が考えられます。
クラッチディスクのセンターが出ていましたら、クラッチカバー取り付けボルトを本締めします。
クラッチカバー取り付けボルトを本締めします
エンジン後部が少し下がっています
エンジンの後部を持ち上げる様に噛まし物を入れます
各部に給油します
ミッションジャッキにM/Tをセットします
取り付け位置までミッションジャッキを上昇させます
クラッチスリーブ等にクラッチスリーブグリースを塗布し、マニュアルトランスミッションのクラッチケースのスリーブ取り付け部にクラッチスリーブ&スラストベアリングを取り付けます。
また同時にピボットピン部にクラッチグリースを塗布し、レリーズフォークも取り付けを行います。
メインドライブシャフトのスプライン部に薄くクラッチグリースを塗布しておきます。
マニュアルトランスミッションのギヤをどの段でも構わないので入れておきます。
M/Tの取り付けが出来ました
マニュアルトランスミッションをミッションジャッキにセットします。
作業は2人で行い、ミッションジャッキを1人が操作し、もう1人がマニュアルトランスミッションを支えながらマニュアルトランスミッションの取り付け作業を行います。
ミッションジャッキを操作し、マニュアルトランスミッション取り付け位置まで上昇させます。
マニュアルトランスミッションを手で少し揺する様にして、クラッチデイスク中心のスプライン部に、メインドライブシャフトのスプラインを挿入して行きます。
エアブリーダーも忘れない様に取り付けます
取り付けボルトを挿入し締め付けます
シフトレバーBkt.を取り付けます
ダストブーツを取り付け溝に確実に取り付けます
シフトコントロールロッドを取り付けます
エンジン後部の位置合わせ用ピンに注意しながら、エンジン後部にマニャルトランスミッションを密着させます。
最左、最右の取り付けボルトを仮締めしてから、全ての取り付けボルトを挿入し本締めします。
同時にスターターモーターも取り付けておきます。
エンジン後部の噛まし物を外し、ミッションジャッキを少し下げてからシフトレバーブラケットの取り付けを行います。
ダストブーツは取り付け溝に確実に挿入し取り付けます。
ミッションメンバーとM/Tを仮付けします
ミッションジャッキを上昇させ、ミッションメンバーを取り付けます
クラッチオペレーティングシリンダーを取り付けます
配線を全て元通りに取り付けます
クラッチオペレーティングシリンダーを取り付けます。
この時に、プッシュロッド先端にクラッチグリースを塗布しておきます。
取り外した配線を、全て元通りに取付します。
クランプを兼ねたタイラップ(束線バンド)が破損している場合には、必ず新たにタイラップを用意し、ブラケット等に固定する様にします。
マニュアルトランスミッション後部の、プロペラシャフト挿入部のオイルシールに薄くオイル等を塗布します。
M/Tにプロペラシャフトを挿入します
センターベアリングを仮付けします
センターベアリングを本締めします
リヤのフランジ部を本締めします
マニュアルトランスミッション後部にプロペラシャフトの前端のスプライン部を挿入します。
センターベアリング部を仮付けし、プロペラシャフト後端のフランジ部をファイナルドライブのコンパニオンフランジ取り付け部に取り付け、本締めします。
プロペラシャフトのセンターベアリングを本締めします。
新品の日産純正ガスケットを用意しました
触媒後部にガスケットを装着
エキゾーストチューブ後部にガスケットを装着
エキゾーストチューブの取り付けを行いますが、予め新品ガスケットを用意しておきました。
フロント側ガスケット 20692-1E810(2枚)
リヤ側ガスケット 20692-65J00(1枚)
スタッドボルトが埋め込まれている触媒後部、エキゾーストチューブ後部にガスケットをセットし、エキゾーストチューブを取り付けます。
各スタッドボルトにナットを取り付け、触媒後部(エキゾーストチューブ前側)より本締めを行います。
フロント側から本締めします
続いてリヤ側も本締めします
エキゾーストチューブサポートBkt.を取り付けます
エキゾーストチューブの取り付けが完了しましたら、エキゾーストチューブサポートブラケットを取り付けます。
エンジンアンダーカバーリヤ側を取り付けます
エンジンアンダーカバーリヤ部を取り付けます。
以上で分解した部品の取り付け作業は終了ですが、ここまに取り付けた部品が確実に取り付けられているか、分解箇所の再確認を行います。
ドレーンプラグの締まり具合を再確認します
取り外したフィラープラグ
フィラープラグを取り外します
ギヤオイルを注入します
ギヤオイルが溢れ出て来ました
マニュアルトランスミッション下側に取り付けられているドレーンプラグの締め付け具合を再確認します。
マニュアルトランスミッション右側側面に取り付けられているフィラープラグを取り外します。
フィラープラグに取り付けられているパッキンは、新品に交換する事を推奨いたします。
フィラープラグを取り外した穴から、指定粘度のギヤオイルを注入して行きます。
規定量 注入出来ましたら、フィラープラグを取り外した穴からギヤオイルが溢れ出て来ます。
溢れ出て来ましたらギヤオイルの注入を止め、ギヤオイル注入用工具(バケットポンプ等)のホースを抜きます。
フィラープラグを取り外した穴から、余分なギヤオイルが溢れ出て来ますので、この余分なギヤオイルを出し切ります。
この余分なギヤオイルを出し切らないでフィラープラグを取り付けると、エアブリーダー等からギヤオイルが噴出する等の原因となります。
ギヤオイルの量が規定量となった所でフィラープラグを取り付けます。
今回はミッションオイルの交換を視野に入れた作業を行いましたので、予めミッションオイルを抜き取ってから作業を行い、作業終了後に新品のミッションオイルを注入しました。
ミッションオイルを交換しないでマニュアルトランスミッションを脱着する場合には、プロペラシャフトを挿入するリヤオイルシール部からミッションオイルが出て来てしまいますので、S.S.T.ミッションオイルストッパーをリヤオイルシール部に差し込んでおく必要があります。
またマニュアルトランスミッションを傾けると、エアブリーダーからミッションオイルだ出て来る可能性がありますので注意が必要となります。
リフトを下げ、バッテリーのマイナス端子を接続します。
溢れ出るギヤオイルは出し切ります
アンダーフロアの作業は完了です
バッテリーのマイナス端子を接続します
バッテリーカバーを閉じます
全ての作業を終了後、念の為にConsaltUを接続し、診断を行いました。
故障データは記憶させておらず、情報の書き込みも必要ありませんでした。
エンジンを始動しない状態でクラッチペダルを踏み込み、作動状態、異音の有無等を確認します。
またシフトチェンジも行い、全てのギヤがスムーズに入るかどうかも確認します。
この後、エンジンを始動し、クラッチペダルを踏み込みながら全のギヤがスムーズにはいるかどうかを確認します。
リフトから車両を出し、試運転を行います。
初めユーザーが訴えていた異音が消えているか。
クラッチの作動、全てのギヤへスムーズなシフトチェンジが可能か。
走行中に振動等の異常は発生していないか。
加速時、減速時、高速走行時、旋回時、いかなる運転状態でも異常な事態が発生しない事を確認します。
異常が無ければ、一連の作業は全て完了です。
今回の作業は、道路運送車両法により認証工場の認可を受けた自動車整備工場で作業を行い、整備主任者が完成検査を行わなければならないとされています。
作業の内容におきましても、容積の大きい部品、重量の大きな部品があり、1人の作業では非常に危険な場合があります。
従いまして、作業は2人以上で行う事を推奨いたします。
また、マニュアルトランスミッションケースはバリが多く残っており、素手で作業を行った場合には怪我をする事があります。
必要であれば軍手を嵌める等、手を保護する様 心掛けて下さい。
エキゾーストチューブは、走行直後には熱くなっており、手で触れた場合には火傷を負う事があります。
この様に熱くなっているエキゾーストチューブに、ルーセン等を吹き付けると引火、爆発する事がありますので、充分に冷めた状態でルーセン等は使用して下さい。
配線のカプラーを取り外す際、接続を間違えると最悪の場合 車両に取り付けられているコントロールユニット等に障害が発生し、修理費用に莫大な費用が必要となる事もあります。
配線のカプラーは不用意に取り外さず、元の接続が解らなくなる可能性があるならば、事前に印を付ける等して必ず元通りに戻せる様にしてから取り外す様にします。
プロペラシャフトのセンターベアリングブラケットは、上下方向がありますので間違えの無い様に取り付ける事が大切です。
プロペラシャフト中央のフランジは取り外す必要は無く、取り外す事によって弊害が起こる事も有りますので、必要で無い限り 取り外す事は避けます。
プロペラシャフトを取り外した際は、ファイナルドライブのコンパニオンフランジを手で揺すり、ファイナルドライブ内部のベアリング等にガタ付きが発生していないかも点検しておきます。
マニュアルトランスミッション後部のプロペラシャフト取り付け部から、オイルのにじみが見受けられる場合には、マニュアルトランスミッション後部のオイルシール、プロペラシャフト前端部を点検し、必要であれば不良の部品を交換します。
ミッションマウントを取り外す際、ミッションジャッキを下げ過ぎた場合にはシフトレバーカバーが損傷したり、周辺の部品が損傷する場合がありますので注意が必要です。
マニュアルトランスミッションをエンジンと分離する際、手で揺すっただけでは隙間が出来ない場合が多くあります。
この様な場合には、マイナスドライバー、バー等の工具を使い隙間を開けますが、この前に取り付けボルトが全て取り外されている事を再確認する必要があります。
マニュアルトランスミッションを脱着する際、エンジン後部左下側に取り付けられているクランク角センサーは、必要であれば予め取り外し損傷しない様に対処する事が必要です。
クラッチディスクは、フライホイール、クラッチカバー、クラッチディスク本体の形状次第では逆に取り付けが可能な物もあります。
クラッチディスクを逆に取り付けた場合には、クラッチが切れなくなるばかりか、周辺の部品をも損傷させる場合がありますので注意が必要です。
クラッチカバー取り付けボルトは、規定トルクで全てを均等に締め付けないと、クラッチジャダー等の原因となる事があります。
フライホイールを取り外した際、クランクシャフトリヤオイルシールを確認し、必要であればこのクランクシャフトリヤオイルシールを交換しておきます。
また、マニュアルトランスミッションを降ろした状態では、エンジン後部が見易く整備もし易い為、車両の使用年次、走行距離等を勘案し、交換した方が良い部品は この際に交換する事が懸命です。
今回、異音がする為に取り外した「小倉クラッチ製 ORC-400 Light STD」は、構造、機能的には全く正常でした。
レーシングクラッチとして製造されている関係で、エンジンレスポンスの向上を一番に考えており、異音が発生するのは承知の上 製造されています。
異音が発生するだけでトラブルに繋がる事は無く、サーキット走行等では軽量化されたフライホイール&クラッチによって、よりハイレスポンスな走りを実現しようとした製品です。
この異音さえ、事前に理解し取り付け作業を行えば、ユーザーも安心して吹け上がりの良くなったVQ35型エンジンを堪能出来たと思います。
予め部品の特性を調査し、選択する必要性を改めて感じさせる整備でした。
技術情報提供 日産自動車株式会社、小倉クラッチ株式会社