エンジンオイル
クルマを所有している限り、よくオイルと水くらいは自分で管理するように言われますが、皆さんはどうされていますか? なかなか具体的に管理されている方は少ないと思います。また、確実に管理しているよっていう人も、例えば交換サイクルをお伺いした時、理論的に答えられる人はほとんどいないと思います。
このページでは、そんな一番身近で複雑なエンジンオイルについて、役割、種類、交換時期、銘柄選択の要点、こんな事をお話させていただきます。

エンジンオイルの役割

エンジンオイルには、皆さんご存知のように一番主たる役割として潤滑作用というのがありますが、この他にも冷却作用、密封作用、清浄作用、防錆作用、緩衝作用、合計6個もの役割があります。

1番目の役割である潤滑作用は、エンジン内部ではシリンダー内をピストンが上下運動するような摺動(こすれながら動く)部分が多くあります。金属と金属が直接接しながら摺動すると摩擦が大きくなり焼き付きを起こしてしまいます。これを防ぐ目的で、金属と金属の間にオイルを入り込ませ、金属同士を滑らせる事によって滑らかな摺動が実現出来ます。

2番目に冷却作用ですが、エンジンはラジエータークーラント(冷却水)で冷やすだろう?って考える方も多いですが、クーラントを循環させられないピストン等はエンジンオイルにより冷却されます。ですから、エンジンオイルの管理が悪いとエンジン内部でオーバーヒートし焼く付く原因となります。

3番目に密封作用ですが、シリンダーとピストンの間に薄い油膜を形成する事により、金属と金属の間にエンジンオイルが入り込み、隙間が無くなり密封度が高くなって圧縮時の圧縮圧力の保持や、膨張時の爆発圧力を逃さず受け止めるのでエンジン本来の性能が発揮されます。

4番目に清浄作用ですが、エンジンの内部では吸気行程で吸入された混合気が圧縮工程中にクランクケース内に一部侵入したり、膨張行程中に爆発燃焼した後の排気ガスの一部がクランクケース内に吹き抜けています。また、エンジン内部で金属同士が摺動する部分において摩擦により金属粉が発生したり、外気から微細な異物がエンジン内部へ侵入したりで、結構エンジンの内部には微細な異物が侵入しています。この常に異物が侵入するエンジンの内部に、エンジンオイルを隅々まで行き渡らせる事により、各部の汚れを洗い流して洗浄しています。また、エンジンオイルにはこの洗い流した異物をオイル自身の内部に蓄積させ、外部に放出しない性質があり、エンジン内部を常に綺麗な状態に保ちます。

5番目に防錆作用ですが、エンジン内部で膨張行程中発生する爆発燃焼後の排気ガス中に含まれる酸化物質や、外気と共に侵入してくる水分がエンジンを構成する金属部品に付着すると錆が発生してしまいます。この金属部品に、常にエンジンオイルの油膜を形成する事により、錆の発生を防止しています。

最後に緩衝作用ですが、例えば床の上にボーリングのボールを落とすとかなりの衝撃が加わります。しかし、水を張ったプールの中にボーリングのボールを落とすと、衝撃力が水により吸収緩和されプール底面に衝突する時の力は大幅に軽減されてしまいます。エンジン内部では、膨張行程中発生する爆発エネルギーを直接受け止めるピストン、ピストンピン、コネクティングロッド、、クランクシャフト、メタル等の連結部にエンジンオイルが油膜を形成することにより、前述の水と同じ様に衝撃を緩和する働きを行っています。

エンジンオイルの種類

エンジンオイルには3種類のベースオイルがあり、それに添加剤を混合して使用しています。

ベースオイルは、原油の中に含まれるロウ、硫黄、窒素酸化物等が精製工程中によって取り除かれます。
更に原油を蒸留し、減圧蒸留装置により蒸留温度別に燃料(ガソリン、軽油等)、機械油(ベースオイル原料等)、コールタール(アスファルト原料)等に分別されます。これによりベースオイル原料が抽出され、精製方法により化学合成系、鉱物系に分類されてゆきます。

添加剤は、ベースオイルに混合させる事により、エンジンオイルとしての役割を果たすのに必要な能力を与えます。
添加剤の種類としては、酸化防止剤、摩耗防止剤、洗浄分散剤、防錆剤、粘度指数向上剤、その他があります。

化学合成油は、ナフサを科学的に分解し、潤滑油として必要な成分のみを取り出して精製したものです。分子構造が均一であると共に、酸化し難い性質を持っています。
コストは高くなります。

鉱物油は、分子構造を変化させるような化学反応を伴う精製工程は行わないで、潤滑油として不要な成分のみを取り除いたものです。
コストは低く抑える事ができます。

部分合成油は、化学合成油と鉱物油をベースオイルの段階で混合させたもので、それぞれのベースオイルの利点を生かす事が出来ます。

エンジンオイルの規格については、現在主に用いられるものとして
3種類が定められており、それぞれに重要な意味を持っています。

API(アメリカ石油協会)規格は、省燃費性・耐熱性・耐摩耗性等エンジンオイルに必要な性能を設定したもので、ガソリンエンジンオイルにはSA〜SM、ディーゼルエンジンオイルにはCA〜CI-4迄定められています。新しいグレード程、基準が厳しく高い品質のオイルとなっています。



Z33 エンジンルーム全景とオイルレベルゲージ

API規格

ILSAC(国際潤滑油標準化認定委員会)規格は、省燃費性向上に関しては、従来の規格では製品の初期性能だけが評価されてきたが新規格においては、省燃費性の持続性も評価の対象となっている。具体的には、8000km相当使用されたオイルで基準値をクリアーする必要があるなど長期安定性を求められるようになってきている。他に強化された基準値としてはオイル消費の低減があり、オイルの蒸発性を抑えるように強化されている。高温酸化安定性に関しては、試験基準値の強化となっている。

ILSAC規格

SAE(アメリカ自動車技術者協会)粘度規格は、エンジンオイルの粘度(硬さ)を表すもので「10W-30」のようなマルチグレードと「30」のようなシングルグレード表示があります。一般的にはマルチグレードが用いられWはWinterの略です。

SAE粘度規格

添加剤の種類

エンジンオイルが劣化したと感じるのは、もちろんベースオイル自体の劣化も考えられますが、基本的にはベースオイルの方が寿命が長く、オイルに含まれる添加剤成分が劣化する事により交換の必要性が出て来ると考えて良いと言われます。
特にエンジンオイル粘度低下に関しては、未燃燃料が吹き抜ける事によるエンジンオイルの希釈も大きな要因ですが、ベースオイルの分子がせん断されて粘度低下する事はありませんが、添加剤のポリマーがせん断してしまい粘度低下が起こる為、せん断安定性の優れた添加剤を含むエンジンオイルが選ばれる傾向にあります。

種類 機能・作用の概略 化合物 添加物質
摩擦調整剤 潤滑剤の摩擦特性を望ましいように調整する

油性向上剤、極圧添加剤、固体潤滑剤、清浄分散剤の総称
粘度指数向上剤 油溶性高分子ポリマー

低温では小さく糸まり状に凝集し、高温では溶解性が増し伸
び広がった状態になる

温度変化に伴う粘土変化率低減、燃料消費量の低減、低オイ
ル消費の維持、低温始動性の改善
ポリメタクリレート(MW:20000〜1500000)
ポリアクリレート
ポリイソブチレン(MW:5000〜300000)
オレフィン(コポリマー)共重合体
ポリアルキルスチレン
スチレン-ジエンコポリマーの水素化物
分散性の機能を付加した化合物
清浄分散剤 清浄剤は高温運転における劣化物の沈積を予防、抑制するも
ので、金属系が多い

分散剤は比較的低温で発生するスラッジを分散させるもので、
無灰系が多い

分散、可溶化および酸中和の三作用を有す
金属系 スルフォネート(金属:Ca、Ba、Mg)
フェネート(金属:Ca、Ba)
ホスホネート(金属:Ba)
サルシレート(金属:Ca)
カルボキシレート(金属:Ca)
上同 無灰系
こはく酸イミド
こはく酸エステル
アルケニルこはく酸誘導体
ベンジルアミン
メタクリレート系
清浄性粘度指数向上剤
アルキルフェノールアミン類
流動点降下剤 (パラフィン系)基油よりもさらに低い流動点を要求される潤滑
油に添加される物質で、析出するワックスの結晶形態を変え、
流動点を下げる

すなわちワックスの結晶化および三次元的網目構造化を妨げ
たり、ワックス結晶表面への潤滑油の吸着を抑制する
硫黄系 (低分子量の)ポリメタクリレート
ポリアクリレート
塩素化パラフィン−ナフタレン縮合物
塩素化パラフィン−フェノール縮合物
ポリアルキルスチレン系
極圧添加剤 接触圧力が高く、すべり速度が大きい、いわゆる極圧潤滑下
で生じる発熱で、接触面と反応することにより金属同士の接着
を減少させ、摩擦・摩耗を少なくし焼付きを防止する
硫黄系 オレフィンポリサルファイド
硫化油脂
ジペンジルジサルファイド
固体潤滑剤 相対運動における表面損傷を防ぎ、摩擦・摩耗を減少させる
ために粉末または薄膜として使用される固体

多くの固体潤滑剤は異方性が強く、特定の結晶面または分子
間結合力が弱く、塊としての摩擦係数も小さい、いわゆる自己
潤滑性をもっている
りん系
アルキルおよびアリルリン酸エステル
アルキルおよびアリル亜エステル
りん酸エステルのアミン塩
チオリン酸エステル
チオリン酸エステルのアミン塩
上同 有機金属系 ナフテン酸塩、
Mo-ジアルキルジチオフォスフェート
上同 塩素系 塩素化パラフィン
上同 無機系 二硫化モリブデン
グラファイト
油性向上剤 境界摩擦を低減し、油性を向上させる

有効な化合物は長鎖で分子量が大きく、かつ、分子の一端に
極性基を有する

これらの化合物は金属表面に吸着し、配列して吸着膜を作り
、この吸着膜が直接金属接触の頻度を減少させ摩擦を低下さ
せる効果は吸着膜の脱離温度以下に限られ、摩擦面温度が
上昇する極圧潤滑下では効果がない
ラジカル
捕捉剤
フェノール系
高級脂肪酸
高級アルコール
脂肪族アミン
アミドエステル
酸化防止剤 潤滑油の酸化は空気あるいは酸素存在下、熱、金属触媒、光
等により加速される

この酸化反応は遊離基(ラジカル)連鎖反応によって進行し、
初期酸化生成物として不安定なハイドロパーオキシドを生じ、
さらにこれが分解して新たな連鎖を生じて加速的に進行する
酸化防止剤は遊離基あるいはハイドロパーオキシドと反応し、
これらを安定な物質に変え、ごく初期に酸化の進行を停止す
る作用を持つ

また、触媒となる金属の表面を被服したり、溶出金属と反応し
て、これを不活性化する金属不活性化剤も潤滑油の酸化を
間接的に遅らせる
ラジカル
捕捉剤
フェノール系
ジターシャリーブチル
パラクレゾール(DBPC)
アリールベンゾフラン
(ヒドロキシカルボン酸の分子内環状エステル)
さび止め添加剤 鉄および銅の表面に最ちょう密の状態で吸着し、さびの発生を防ぐ

極性基と適当な大きさの親油基(炭化水素基)を有する

金属表面に極性基が吸着し、強固な吸着膜を形成し酸素およ
び水と金属表面との接触を防ぐ

この作用機構は油性向上剤と類似しているため、油性向上剤
にはさび止め効果を示すものが多い

なお、さび止め添加剤には、このほか水置換性、水可溶化性
等の機能も重要です
アミン系
フェニル−アルファ−ナフチルアミン
ジアルキルジフェニルアミン
上同 ハイドロ
パーオキシド
分解剤
ZnDTP(ラジカル捕捉剤としての
機能も有す)
上同 金属
不活性化剤
ベンゾトリアゾール
ジアルキルジチオリン酸亜鉛類
ジアルキルセレン
金属フェネート類、有機窒素化合物類
上同 カルボン酸 アルケニルこはく酸誘導体
腐食防止剤 油の酸化生成物や極圧添加剤のような金属との反応性が大
きい添加剤による

(主に)非鉄金属の腐食を防止する

金属不活性化剤の機能も有する
カルボン酸塩 金属石けん
アミン塩
上同 カルボン酸 アルケニルこはく酸誘導体
上同 スルホン酸塩 金属スルフォネート塩
ジアルキルナフタレンスルホン酸塩
上同 オレイン酸 オレイン酸とその塩
上同 エステル ソルビタンモノオレエート
上同 アミン アルキルアミン
上同 リン酸および
リン酸塩
酸成アルキルリン酸エステル
ジブチル酸性リン酸エステル
上同 アニオン
ノニオン
ベンゾトリアゾール
抗乳化剤 エマルション(W/OまたはO/W)を破壊して2液相に分離する
作用を示す

大部分は界面活性剤で、界面の膜強度を低下させたり、ある
いは電気ニ重相の電荷を中和し、エマルションの破壊を促進
させる
アニオン
ノニオン
石油スルフォン酸塩
アルキレンオキシド縮合物

(乳化剤は下記の物質)
アルキルベンゼンスルホン酸塩
ポリオキシエチレンアルキルエーテル類
ソルビタンアルキルエステル類
アルキルベタイン
消泡剤 泡消し剤とも称し、泡立ちを押さえるため使用される添加剤

潤滑油に不溶で、かつ表面張力が小さく泡沫に対し拡張性の
ある性質が要求される
シリコーン油
シリコーンポリマー類
エステル
多価脂肪族アルコール、
アルケニルこはく酸誘導体
金属石けん、
ポリアクリレート
アシル化ポリアミド

エンジンオイルの劣化

1.物理的劣化

エンジン内部の機械的圧力などによって、エンジンオイル中の粘度指数向上剤(ポリマー)がせん断されて、その高分子は細かくなって行きます。

もちろん、ベースオイルもせん断されて行きますが、こちらの方は機械的なせん断作用を受けても、その分子が切断されて粘度が低下する事はほとんどありません。

従って、粘度指数向上剤(ポリマー)等のせん断によって、エンジンオイルはまず粘度低下を起こして行きます。

せん断が進むと、油温が上がった時にはっきりと解る様になります。

エンジンオイルの粘度が低下して来る時点で多くのユーザーは交換していますが、まだ次の段階へは深く進行している訳ではありません。


なお、この物理的劣化は、エンジンオイルに付加する添加剤によって大きく緩和させる事が可能となっています。

2.酸化劣化

エンジンオイルは、酸素の影響によって酸化されることになります。

普通、酸化の連鎖反応は酸化防止剤が分解する事により時間を遅らせる事が出来ます。

酸化したエンジンオイルは、外気の水分を吸収し易くなって行きます。

エンジンオイルが酸化しますと油溶性酸化物となります。

これが更に複合反応し、不溶解性物質となります。

不溶解性物質とは、いわゆるスラッジ、ワニスと言われる物で、エンジン内部のオイルラインを詰めてオイルを必要とする摺動部の潤滑不良を発生させたり、ピストンリングを固着させたり、 エンジンの冷却を阻害したりします。

エンジンは、運転中には高温で酸化の触媒になる様な金属や、酸性ガスの環境下に置かれていますので、エンジンオイル(炭化水素)は空気(酸素)の下で、酸化(カルボン酸生成)し易い状態となっています。

酸化のし易さを考えると、ベースオイルだけで見れば、一般的に鉱物油は酸化し難く、化学合成油の方が酸化し易いと言われています。

化学合成油が何故酸化し易いかと言いますと、不純物の含有が無い訳ですから、酸化促進因子が有れば連鎖的に反応が進行してしまう為と言われています。

従って、高度な精製方法である水素化分解法等で製造された鉱物系ベースオイルも化学合成油と同じ様に酸化し易くなっています。

一般的な精製方法で製造された鉱物油には不純物が多く含有されていますから、その不純物の内の硫黄化合物が酸化阻害成分として働き、化学合成油と比較するとエンジンオイルの酸化度合いは低く抑えられると考えられています。

エンジンオイルが酸化劣化する原因として・・・、

2-1.酸素

潤滑油膜が酸素の下で酸化鉄、リン酸鉄と変化し保護油膜として働く反面、エンジンオイル自身も酸化によって劣化して行きます。

酸化劣化する順番としては、エンジンオイルに含まれる添加剤が真っ先にに劣化をしてしまいますので、エンジンオイル中の酸化防止剤の劣化速度が重要な鍵となるとも言われています。

2-2.温度

酸化劣化反応が化学反応である為、熱の上昇は酸化劣化に大きな影響を与えます。

一般的に油温が10℃高くなると、酸化劣化反応は2倍に加速されますので油温管理が重要なポイントになります。

エンジンオイルに含まれる添加剤としては、油温を上昇し難くする物も有りますが、エンジンオイルの酸化劣化反応から見て、10℃温度を下げる事が出来れば温度による酸化劣化防止効果は2倍になると言えますので、エンジンオイル寿命は単純に2倍となるのですが、普通のエンジンオイル添加剤成分はそれ自体も高熱で劣化してしまいますので高温特性の良い物が有利となります。

ただし、閃光温度は極めて高い温度である事と、酸化防止剤自身が時間と共に劣化してしまう要素を持つ為にある程度のエンジンオイル延命効果の後は他の要因とも関連して加速度的に劣化してしまう事もあり、注意が必要です。

2-3.摩耗金属粉やエンジンに使用されている金属自身の触媒作用

エンジンには、アルミニウム、銅、鋼、その他の金属及び合金が使用されていますので、これら金属摩耗粉やそれ自身がエンジンオイルの酸化活性要因となる事が知られています。

また、油溶性の金属塩と言った形でエンジンオイルの添加剤としても含まれていたり、微量金属としてエンジンオイルの成分にミネラル分として含まれていたりします。

金属表面の酸化物質が金属を含む化合物として次にあげる水分と共に油中に溶け出し作用する事も有ります。

エンジン運転中、金属表面は特に高温になり、触媒反応的にも好都合な条件が有りますので水分、窒素酸化物と並んで酸化促進の要因と言えます。

2-4.水分

内燃機関の性格上、燃焼ガスに含まれる水分や排気ガス再循環装置(E.G.R.)によってもたらされる水分が主になりますが、エンジンオイル自身も空気に触れる構造である為、水分はある程度最初から含まれています。

特に日本国は湿気の多い環境ですから、エンジンオイルの保管管理に湿気を避ける事が重要です。

水分は、特に亜鉛系酸化防止剤(ZDTPジアルキルジチオリン酸)や過塩基清浄剤が多く含まれるエンジンオイルでは加水分解されたりしますので、長期間使用しない場合も劣化が進行すると思われますのでエンジンオイルの交換期間を考える事も必要となります。

特に水分、ブローバイガスの発生が多くなる短距離短時間走行の場合はシビアコンディションと考え、走行距離より早目のエンジンオイル交換が必要となって来ます。

2-5.ブローバイガス

ガソリンエンジン搭載車の場合は窒素酸化物(特にNOx、硝酸)等、ディーゼルエンジン搭載車の場合には硫黄酸化物(SOx)等が発生し、水分に溶けて酸性物質となりますのでエンジンオイルを著しく酸化させる事になります。

排気ガス再循環装置(E.G.R.)がほとんどの車種に装着となっていますので、エンジンオイルにとっても各金属パーツにとっても、酸化要因が増えた事になりその影響はかなり強く現れています。

その為に、ブローバイガスの成分(未燃焼ガス、水分、NOx、SOx等)に対して、中和、不活性化させる添加剤が必要となります。

なお、この酸化劣化は、エンジンオイルに付加する添加剤によって大きく緩和させる事が可能となっています。

3.熱劣化

エンジンオイルは、エンジンが運転中に発生する熱によって熱重合と言う変化を起こします。

このまま使い続けて行けば、水分を含んだエンジンオイルが酸素と熱により劣化し、分子粒が段々と大きくなって行きエンジンオイルに溶け難くなって行きます。

エンジンオイル中の分散状態から、泥状の沈殿物(スラッジ)へと変化し、固体状態のデポジットとなって行きます。

更に劣化が進むとカーボンとなってしまいます。

試験データの結果から見てみますと、エンジンオイルの温度が90℃辺りで走行すると、この温度辺りが最もエンジンオイルの劣化の進行は緩やかになります。

エンジンオイルの温度が90℃以下では、エンジンオイルの温度が下がれば下がるほど劣化が早くなり、油温が25℃の状態で同じ時間走行した場合と、反対にエンジンオイルの温度が90℃より高温の130℃で同じ時間走行したの状態での劣化度合は同じ位で約1.3倍ほど劣化が早くなります。

これはエンジンオイルが油温90℃の状態をキープしたままで時間的な劣化を標準としますと、エンジンオイルが低温になる走行ではSOxと水分を合わせた影響が大きくなりエンジンオイルは劣化します。

反対にエンジンオイルの温度が130℃等の高温では、水分はエンジンオイル中に混入し難い事もありSOxの影響は少なく、NOxの影響が強く出てる事によってエンジンオイルを劣化させます。

また、エンジンオイルが低温から上昇した場合でも、通常の劣化に加えて更に劣化が促進される事です。

エンジンオイルの劣化の仕方は、油温が低ければ低い状態で使われたほど劣化が酷く、その低温での使用時間が長ければ長いほど劣化が酷くなります。

問題となるのは、普段は短距離通勤や買い物走行等の走行の仕方や、あるいは真冬や寒冷地で油温が高くならず低温状態で走行していた場合です。

データではこういった状態で急に高速走行等して油温を十分上がる様に走ると、急激にエンジンオイルが劣化しれしまいます。

エンジンオイルが90℃の油温での劣化度と比較すると、エンジンオイルの温度が0℃での使用状態から90℃にまで一気に上昇させると約4倍劣化が促進されてしまいます。

エンジンオイルの温度が25℃の状態から、同じ様に90℃まで一気に上昇させると約3倍劣化が促進されてしまいます。

エンジンオイルの温度が50℃の状態からでも約1.5倍以上の劣化促進となってしまいます。

エンジンオイルの温度が25℃と130℃の油温状態まま劣化するのが、エンジンオイルの温度が90℃の油温状態のまま劣化するのと比較し1.3倍程度ですから、低温から油温の上昇が繰り返される走行が如何にエンジンオイルを劣化させているかが解ります。

なお、この熱劣化は、エンジンオイルに付加する添加剤によっても緩和させる事が出来ません。

エンジンオイルの交換時期

エンジンオイルに添加されています清浄分散剤で、エンジン内部の汚れを落としエンジン内部を綺麗に保ち、エンジンから出された汚れをエンジンオイル内に吸収する様に作用します。

また、基本的にはエンジンオイルの汚れ自身はオイルフィルターで濾過出来るほどの大きさはなく(濾過出来るのは10μ程度以上)、上記添加剤成分によってエンジンオイル内部に取り込まれた酸系物質も素通りしますので、エンジンから出された汚れはエンジンオイル中に溜まる一方です。

そしてエンジンオイル内部に吸収されるエンジン内部から出された汚れの量が、エンジンオイル内部に吸収出来る限界の量を超えますと、それ以上エンジン内部の汚れも落とせないと言う事になります。

一般的に使用されておりますエンジンオイルには、エンジンオイルに添加されています清浄分散剤成分の量は、エンジンオイル交換推奨期間の約2倍位使用しても大丈夫な量が含まれています。

しかし、衣類の洗濯と同じ様に能力以上の汚れは落とせませんし、 汚れが酷い物を洗った場合、水も酷く汚れます。

エンジンオイルを交換しないと言う事は、 例えば衣類の洗濯物を次から次へと洗濯機に入れて、水を交換しないのと同じ事となりますから、洗濯機側まで汚れが付着してしまう事も考えられます。

つまり、エンジンオイルの管理が悪い自動車では、ロッカーカバー内に堆積したのスラッジや、エンジンオイルフィラーキャップ裏側に堆積したスラッジ等に現れて来ます。

そう言った事が積み重なると、性能の良いエンジンオイルやエンジンオイル添加剤をエンジンに注入しても、エンジンオイル内部に吸収出来るエンジン内部から出されました汚れの量は決まってますから、エンジンオイル内部に吸収出来なかったエンジン内部から出されました汚れはどこかへ溜まらない訳には行かず、エンジンオイルの状態やエンジン本体の調子の良非には関係なくスラッジが堆積してしまう事は仕方が無い事と言えます。

実際に目で確認するには、エンジンオイルフィラーキャップを取り外しての裏を見るか、ロッカーカバーの裏側を触ってみると確認出来るはずです。

手がスラッジで真っ黒に汚れてしまったら要注意です。

そうなってしまった後の対応策としては、本来ならばエンジンをオーバーホールしてから洗浄するべきです。

しかし、この様な作業を行いますと費用がかさむ等、実際には難しい事から、エンジンオイルの交換時期を早目にする等の長期的な対応を行う事が必要となって来ます。

もう一つの方法として、オイルフィルターの性能を上昇させ、1〜3μ程度のエンジン内部から出されエンジンオイル内部に吸収された不溶性不純物を取り除いてしまう方法があります。

この様なオイルフィルターを使用しますと、かなりエンジンオイルが汚れ難くなり、エンジン内部も綺麗になるはずなのですが、エンジンオイルに添加されています清浄分散剤によってエンジンオイル内部に取り込まれた酸性物質や、不溶解性物質も、これらの不純物をエンジンオイル内部に取り込ませた添加剤成分と共にオイルフィルターで取り除かれてしまいます。

また、エンジンオイルに付加されている添加剤自身にも酸化劣化が起こってますので、エンジンオイルには添加剤成分の補充が必要になって来ます。

したがって、エンジンオイルをロングライフ化させる為には、別売のエンジンオイル添加剤が必要になって来ます。

しかし、エンジンオイルに別売の添加剤を付加させると言う事は、エンジンオイルに溶解させる事が出来る限度と言う物があり、ベースオイルによってもその限度が異なりますので、むやみやたらに添加剤を付加させるとエンジンオイルに溶解し切れない添加剤の成分がエンジンオイルパン内に沈殿する可能性もあります。

その様な事にならない為に、数多くの機能を持ったエンジンオイル添加剤製品が今後ますますとも開発され、エンジンオイルへの馴染み易さも考えられる様になって来ているのも事実です。

銘柄選択の要点

エンジンオイルを選ぶと言っても、その難しさは簡単に言い表す事は出来ない。

性能が良いエンジンオイルを選択しても、そのエンジンオイルの粘度や性質が使用するエンジンの構造、クリアランス、冷却方法、磨耗損傷度合い等によっては最高の性能を発揮するとは限らない。

また、ドライバーのアクセルの踏み方、走行方法等の運転の仕方、そして自動車を使用する地域、気候、道路事情等の自動車の使用条件・・・。

同じエンジンを搭載した自動車でも、一概にこのエンジンオイルが最高の性能を発揮しますよ!・・・とは言い切れないのが事実です。

上記の全ての項目に対して総合的にマッチングしないと最高の性能は発揮されない。

それでは、最高の性能を発揮するエンジンオイルを選択するのには?・・・って言われても、中々即答する事は難しい。

使用しているエンジンに、最高の性能を発揮させる事が出来るエンジンオイルの選択を困難にする要因としては・・・、

1.エンジンの構造

1-1.レシプロ・エンジン

1-1-1.直列配列

  ノーマルアスピレーションorターボチャジャー、スーパーチャジャーの過給機付き

  水冷式or空冷式

1-1-2.V型配列

  ノーマルアスピレーションorターボチャジャー、スーパーチャジャーの過給機付き

  水冷式or空冷式

1-1-3.水平対向配列

  ノーマルアスピレーションorターボチャジャー、スーパーチャジャーの過給機付き

  水冷式or空冷式

1-2.ロータリーエンジン

  ノーマルアスピレーションorターボチャジャー、スーパーチャジャーの過給機付き

2.ピストンクリアランス

2-1.シリンダーブロックが鋳鉄製

2-2.シリンダーブロックがアルミニューム合金製

2-3.ピストンが鋳造製品

2-4.ピストンか鍛造製品

2-5.ファミリーカー系自動車に搭載されるエンジン

2-6.スポーツ系自動車に搭載されるエンジン

2-7.競技専用車両

2-8.ヒストリックカー

3.ドライバーの運転方法

3-1.ほとんどアクセルを踏まず、ゆっくり加速する人

3-2.一般的(平均的)なアクセルの踏み込みをする人

3-3.過剰なアクセルワークを常時する人

3-4.強く踏み込んで加速し、一定速度に達したらアクセルを一度戻し軽く微調整する人

3-5.走行方法は人によって異なり千差万別です

4.自動車を使用する条件

4-1.主に通勤で毎日使用する

4-2.主に仕事として毎日使用する

4-3.主に買い物で毎日使用する

4-4.休日に買い物で使用する

4-5.自動車を数所有で使い分ける

4-6.時々スポーツ走行を行う

4-7.競技専用として使用する

5.使用する地域、気候

5-1.気温は地域により大きく異なる

5-2.登坂路を多く走行する

5-3.高速道路を多く走行する

6.道路事情

6-1.信号の多い渋滞路を走行する

6-2.信号は少なく混雑していない道を選んで走行する

等々、様々な使用のエンジン、自動車・・・、そしてその自動車をを運転している人、場所・・・、もっともっと複雑に分類が出来るはずです。

ただ、単に燃費を良くする目的だけで、スポーツ系自動車に搭載されているエンジンに0W-20のエンジンオイルを使用した場合、エンジンを高回転まで頻繁に回すとエンジン内部が損傷したり、焼付きを起こす可能性があります。

また、ファミリーカー系自動車に価格が高く高性能な10W-50のエンジンオイルを使用した場合には、街乗り走行では著しく燃費が悪化してしまう可能性があります。

スポーツ系自動車を雰囲気を楽しむだけで、最高性能を発揮する様な走り方をせず、燃費重視で走行するだけなら5W-20のエンジンオイルが最高の相性となるかも知れません。

ファミリーカー系自動車でも、頻繁に登坂路を走行し、エンジン回転数を最高回転数付近まで頻繁に回す様な運転をする場合には、15W-40や10W-50等のエンジンオイルが最高の相性となるかも知れません。

ヒストリックカーや欧米自動車メーカーで製造された自動車に搭載されているエンジンでは、0W-20は当然、10W-30等のエンジンオイルを使用した場合には、エンジンオイルがかなり大量にエンジンから漏れて来ると言った症状が現れ、10W-40や15W-40のエンジンオイルを使用すると、今まで漏れていたエンジンオイルが嘘の様にほとんど漏れなくなったりする事がよくあります。

これは、エンジン製造時の機械加工精度の問題で、パッキン、シール類を交換しても改善されない事が多い様です。

使用している自動車に搭載されているエンジンに最高の相性となるエンジンオイルの選定は、車両側に油温系を取り付け、どの様な運転状態の時に現在エンジンオイルの油温は何度となっているのか・・・。

また、車両側に油圧計も取り付け、どの様な運転状態の時に現在エンジンオイルがエンジン内部に圧送されている圧力は幾らか・・・。

そんなデータを収集しながら、エンジンのスペックも考慮し、一般的には運転者が行うエンジンを最も過酷に使用する時の状態を考慮し、選定を行う必要があります。

日常的には燃費重視だからと言って、稀に過激なアクセルワークを行う様な運転を行う場合には、過激なアクセルワークを行った時に必要な性能を持つエンジンオイルを使用していないと、エンジンが損傷等してしまう結果に繋がる可能性があります。

運転者が行う最も過酷な運転状態を基準に、エンジンスペックに見合ったエンジンオイルを選定する事が、使用している自動車に搭載されているエンジンと最高の相性を持ったエンジンオイルを選定出来る事に繋がると確信しています。

銘柄選択の結論

自動車を使用している人達から頻繁に受ける質問としまして、高いエンジンオイルをエンジンに注入して長い期間使用するか・・・、安いエンジンオイルを注入して短い期間使用するか・・・?

どちらが良いのかな?

って聞かれます。

どちらも間違っていますよ・・・!

ってお答えしますと、高いエンジンオイルを注入して短い期間使用するのか?

って言われます・・・。

それも間違いで、くり返しの記載となりますが、運転者が行う最も過酷な運転状態を基準に、エンジンスペックに見合ったエンジンオイルを選定し、エンジンに注入します。

この運転状態、エンジンスペックに見合わない位にエンジンオイルが劣化してしまった時・・・、その時がエンジンオイルの交換時期となります。


エンジンオイルについて、もっともっと詳しく記述したいのですが、多分1冊の本になるのではないかと・・・。

そろそろ、ここで完結です・・・。